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KFAWアジア研究者ネットワーク開催セミナー

KFAWアジアジェンダー研究者ネットワークセミナー 2019年度 第1回(2019年9月19日)「世界女性会議(北京)がもたらしたもの、そして今」

1.日時:2019年9月19日(木)14:00~16:00
2.場所:北九州市立男女共同参画センター・ムーブ5階 小セミナールーム
3.講師:堀内光子(公財)アジア女性交流・研究フォーラム理事長

講演内容

  国連世界女性会議は、1975年第1回(メキシコ)、1980年第2回(コペンハーゲン)、1985年第3回(ナイロビ)、1995年第4回(北京)と行われました。来年2020年は、北京会議から25年と、記念すべき年に当たります。

 北京会議には、政府が集まる「政府間会合」と、NGOが集まる「NGOフォーラム」があり、この二つが同時並行して行われました。このNGOフォーラムが、政府間会合と並行して行われたことで、北京会議は大きく盛り上がりました。NGOの熱気により、国の政策もかなり進みました。ここ北九州市立男女共同参画センター・ムーブをはじめ、各地に男女共同参画センターができました。間接的に、北京会議の熱気がもたらしたのではないかと私は思います。
 北京会議から25周年(北京+25)の記念の年に当たる来年は、ジェンダーに関する画期的な年です。持続可能な開発目標(SDGs)は2015年に定められましたが、2016年から実施されていますので、SDGs実施5年目になります。
 また、「国連女性機関」と外務省は日本語で言っていますが、「国連ウィメン」という方がわかりやすいかもしれません。これが2010年にできたので、創立10周年ということになります。それまで開発問題、調査研究問題、政策を担うところと4つあった国連の女性関係組織を統合し、国連事務次長がトップになって、「国連女性機関(国連ウィメン)」を作ろうという運動の成果だと言えると思います。
 それから、2000年に安全保障理事会で、「女性・平和・安全保障」という決議が出されました。90年代の初めに紛争で女性が犠牲を強いられるということがあったにも関わらず、平和を議論する会合に女性が出ていないということをなくすために、この決議がなされました。安保理で、女性に関する決議が採択されたのは、非常に画期的なことで、この決議から20年ということになります。

 

 国連が、各国の政策に大きな影響を及ぼした功績が2つあります。一つは、「ジェンダー平等を推進する組織(ナショナルマシーナリー)の設置強化です。日本でも、1975年の国際女性年に、総合的な調整機能を果たす機関として総理府に「女性問題担当室」(現在の内閣府男女共同参画局)が設置されました。
 もう一つは、女子差別撤廃条約という女性の人権規約ができたということで、これは実際に政策を進めるに当たって、たいへん大きな柱になっています。国連が条約の制定を行い、各国がそれを受けて実際に政策を進めています。特に、日本への影響は大きかったと私は思っています。日本政府は、条約を批准するとき、国内法を整理するという基本的な姿勢を持っています。この条約を批准するために、今はない法律をきちんと制定するということでできたのが、「男女雇用機会均等法」です。もし女子差別撤廃条約がこのときに無ければ、「男女雇用機会均等法」はもう少し遅れてできたのではないかと思います。女子差別撤廃条約の批准に当たり、日本政府は、1つは「男女雇用機会均等法」を作りました。2つ目は「国籍法」の改正です。日本人男性の外国人配偶者(女性)は、日本国籍が簡単に取れたのですが、日本人女性の外国人配偶者(男性)は日本国籍が取れませんでした。それを平等にすべきということで、国籍法が変わりました。3つ目は「家庭科」で、高校の家庭科は女性は必修でしたが、男性は選択科目でした。それを男女とも必修にするということで、この3つが条約を批准した時の改正でした。

 

 世界女性会議は、平等、開発、平和の3つが大きな目標になっています。平等が重要というのが先進国、開発が重要というのは開発途上国、ロシア、東欧諸国は平和問題を打ち出しました。私は、非常にバランスよく大きな目標が掲げられたと思っています。
 国連は、政府組織という政府間の機関であることが基本です。ただ、経済社会問題については、非政府機関(NGO)が諮問的地位を持つことができます。ジェンダー平等とか男女共同参画の分野で、女性団体あるいはNGOの活動が活発で、効果的に国連をサポートしています。国連も、ジェンダー平等や男女共同参画の分野では、NGOの力をたいへん評価しているというふうに言えます。

 第4回世界女性会議(北京)で何が変わったかというと、北京会議では、初めて「ジェンダー」という言葉が使われ、女性問題からジェンダー問題すなわち男女の問題として取り上げられました。女性の問題から男女の問題として取り上げられたことは、大きな意義を有することと思います。
 二つめが、再び女性の人権に焦点が当てられ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)と女性に対する暴力が、国連の問題になったことです。北京会議の直前にバルカン半島の紛争で女性が民族浄化策という名のもとにレイプされるというように、戦争の道具として使われることがあったので、大きな問題になりました。
 三つめが、ジェンダーの主流化です。ジェンダーの問題というのは、すべての分野に関わっており、女性があらゆる分野に参画することが大切だと思います。SDGsでは、目標5が「ジェンダー平等を実現しよう」ですが、貧困や教育、福祉、気候、環境などほかの目標も、ジェンダー平等なしには実現しないのです。
 四つめが、エンパワーメントです。エンパワーメントとは、女性自身が力をつけること、そのためのいろいろな政策が必要だと思います。北京会議で、エンパワーメントが出てきたのは、たいへん大きなことだと思います。

 

 北京会議では、北京行動綱領が定められ、12の重大関心領域が示されました。女性に対する暴力、女性と武力紛争、女性と環境、女児などが盛り込まれています。女児というのは、小さな子ども、少女ではなくもっと小さな子どもたちがFGM(注/女性器切除)や児童婚の犠牲になるなどの問題です。さらに、2005年には、男性と少年、ICT(情報通信技術)などが追加されました。

 

 それから、これからはやはりSDGsだと思います。
私がSDGsでたいへん画期的に重要だと思うのは、1番の「差別撤廃」が入った。SDGsの前身のミレニアム開発目標では、数値目標はあったのですが、こういう実質的なところはなかったのです。女性・少女への差別撤廃が入ったというのは、私はすばらしいことだと思っています。「有害な慣行の撤廃」という3番も入っています。加えて、とても重要なのは4番の育児、介護、家事などアンペイド・ワーク(注/金銭的な見返りのない家事などの無報酬労働)と言っていますが、それをきちんと位置付けたということです。ちゃんと評価しましょうということです。育児、介護、家事は、それをやることによって、女性が社会に出て活動することを妨げるということが基本的にあります。これをどう解決するのかということは、日本のように「ワーク・ライフ・バランス」も重要ですが、国連ではそれだけでなく、公共施設・インフラ整備など、もっと幅広く捉えているということをお伝えしておきたいと思います。5番は従来から言われているリーダーシップ、6番は性と生殖に関する権利と普遍的アクセスで、これはリプロダクティブ・ヘルツ/ライツと言っているものです。
 今後は、SDGsの中で、ジェンダー平等を推進していく、そして目標5だけでなく他の目標にもきちんと目配りをしていくというのが課題だと思っています。

 

 日本は、残念ながら男女格差が極めて大きく、ジェンダー格差指数が世界経済フォーラムから出されていて、2018年調査では、日本は148か国中110位と真ん中より下なんです。先進国では、韓国と並んで最低で、最低のところから抜け出せない残念な状況です。その理由は、政治の分野で女性が少ないということです。それともう1つは雇用です。男女の賃金格差というのは本当に大きいのです。それと女性の管理職がいないということです。女性の管理職がいない、賃金格差が大きいということで、日本は男女格差が大きくなっています。女子差別撤廃条約で言われている民法も、問題ではないかと思っています。夫婦別氏をなぜ選択してできないのかということが分からないのです。夫婦別氏も選択の1つに入る制度を作るようにと、国連は長いこと日本政府に勧告しているのですが、まだできていないという状況です。男女の婚姻最低年齢の違いは、最近法改正してこれはなくなりました。また、離婚後、女性にのみ待婚期間がまだあるのでなくすように言われています。

 女子差別撤廃条約選択議定書というのは、日本で最高裁まで争ってダメだった場合、「これは国連条約上おかしいのではないか?」と国連に訴えることができる選択議定書というものがあるのですが、112か国が批准している中で日本はまだ批准していないという状況です。この選択議定書で個人の訴えの中で本当に多いのは、女性に対する暴力事件です。

 

 次に、これからの世界‐今後の課題ですが、「気候変動・気候危機」というような時代になりましたので、減災をどうできるのかということが1つです。また気候だけの問題ではなく、いろいろな問題がありますが、その時の強靭性、英語でレジリエンスと言いますが、しなやかに戻る、社会は倒れるかもしれないが、、また元に戻るという社会を構築しなければいけないという、これが大きな課題ではないかと思います。
 日本は人口減少に悩んでいますが、実は世界の人口は増えています。2100年に世界の人口は109億人。サハラ以南のアフリカ地域が、インド・中国を抜いて世界一位になります。これから先アフリカの開発支援というのが、非常に大きな課題なのではないかと思います。
 次に、第4次産業革命の真っ只中で科学技術の進展がものすごいので、それに対応して女性たちのエンパワーメントを考えないといけない、これも大きな課題だと思います。
 それから、ジェンダー平等って進んでいるの?ということですが、世界は保守化傾向が強くなっています。アメリカのトランプ大統領のように、一国主義というのがあります。多国間で、みんなで協調していこうと、国連はその中心にいるにもかかわらず、なかなか進まないというのは問題だと思います。

 来年は、北京+25(北京会議から25年)ということで、「国連女性の地位委員会(CSW)」を中心にジェンダー平等、女性・少女のエンパワーメントの取り組みが、世界的にたいへん盛り上がる年だと思います。