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KFAWアジア研究者ネットワーク開催セミナー

KFAWアジア研究者ネットワークセミナー 2011年度 第1回(2011年6月16日)
「大震災と救援―自助・共助・公助と日本赤十字社の役割」

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KFAWアジア研究者ネットワークセミナー 2011年度 第1回 要旨

「大震災と救援―自助・共助・公助と日本赤十字社の役割」

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日 時  2011年6月16日(木)18:30~19:30

 

場 所  北九州市立男女共同参画センター5階 小セミナールーム

 

講 師  日本赤十字九州国際看護大学 喜多悦子 学長

 

参加者  27名

 

 KFAWアジア研究者ネットワークでは、2011年度に4回のセミナーを開催予定です。第一回の今回は、3月11日の東日本大震災から3カ月が過ぎて、震災や災害の際の救援の在り方や日本赤十字社の組織や役割についてお話いただきました。

 

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【講演資料より】
1. 赤十字とは
  ・赤十字の創始者     アンリー・デュナン
  ・1859年  ソルフェリーノの戦い
  ・傷ついて戦えない兵士は、敵味方なく、ひとりの人間としてたすけるべきだ
  ・赤十字の着想から150年を迎えているが・・・
アンリ・デュナン
  1859.6:紛争地の救援活動
  1862.11:「ソルフェリーノの思い出」 出版各国元首皇帝に売り込み
  1863.2:ジュネーブ5人委員会
  1863.10.26-29:16カ国による国際会議
  1864:12カ国による最初のジュネーブ条約
赤十字の任務
  1864年8月 ジュネーブ条約
   目的:救護組織の活動を保護するため
   「戦地軍隊における傷者及び病者の状態改善に関する条約(陸の条約)」
   → その後、海・捕虜・文民の条約が採択された
  国際人道法 : 様々な条約と慣習法の総称
  戦争犠牲者の保護・救済のための国際法
   (戦時における戦闘の手段と方法の規制と戦闘員や文民の保護を規定)
赤十字国際委員会ICRC
  各国赤十字社・赤新月社
  IFRC・RC 赤十字・赤新月社連盟
赤十字の構成機関         
  赤十字国際委員会          
  国際赤十字・赤新月社連盟      
  各国の赤十字社・赤新月社      
  赤十字・赤新月社は 世界の186カ国に広がる
赤十字の7基本原則
  人道 公平 中立 独立 奉仕 単一 世界性
赤十字国際委員会 International Committee of the Red Cross
     機能 1) 戦争/紛争による難民/国内避難民救援
           2) 保護
           3) 追跡サービス    
           4) 国際人道法の広報
国際赤十字・赤新月社連盟 <IFRC・RC> 
   International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies  
   機能 1) 自然災害救援
         2) 保健活動
         3) 社会活動
        4) 赤十字活動の促進
日本赤十字社
   創設者 佐野常民候 1877年 博愛社
昭憲皇太后
  ・明治天皇の后、日本女性の近代化、社会事業振興
  ・学習院女子高等科(当時華族女学校)
  ・お茶の水女子大(東京女子師範学校)
  ・日本赤十字社の発展に寄与
  ・1886(明19)以降、洋装化
  ・赤十字の支援。日本赤十字社正式紋章「赤十字桐竹鳳凰章」=皇后のティアラ
  ・第9回赤十字国際会議(1912<明45> 米ワシントン)の際、10万円(現在の約4億)を下賜、赤十字国際委員会は昭憲皇太后基金 創設、現在でも皇后の命日(4.9)に利子配分。今上陛下皇后も、追加されている

2.災害と健康(救援活動)


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自然災害の疾病構造と救援活動

災害時要援護者(災害弱者)
   高齢者、こども女性(妊婦・授乳婦)、慢性疾患患者(高血圧・腎疾患・糖尿病など)
   精神疾患患者 障害者(視覚・聴覚・肢体障害など)
   難病患者(筋委縮性側索硬化症など)
   外国人、心理社会的援助を必要とする人々(PTSD)
救援者援助 (隠れた被災者)
  ①被災地の救援者(救援者も被災者)
    ・地元の消防士・警察官・自衛官
    ・自治体職員                   →心のケア
    ・医師・看護師など保健医療者
  ②被災地外から入る救援者
   Debriefing:専門家を交えたストレス解消・PTSD予防のための体験表出の場
   Defusing:自発的・組織的スタッフミーティングでの体験表出
平時からの準備とネットワーク構築
   例)平成16年10月の新潟県中越地震
   介護保険制度が、「災害時に威力を発揮」することを実証
   =高齢者や「生活上、 難問・課題を抱えた人々に対する地域の情報を把握しているケア・ マネージャーらが存在

 

3.東日本大震災
   2010年1月 ハイチ地震  マグニチュード7.0
   2011年3月 日本東北地震  マグニチュード8.9
   2009年以来の地震の大きさ
   2011.03.11地震は日本史上最大規模、同日に余震158回
平成23(2011)年東北地方太平洋沖地震(気象庁)
   発生時刻:2011(平成23)年3月11日14時46分18秒
震  源:日本の三陸沖(牡鹿半島)東南東約130Km、深さ約24Km、北緯38度 6分12秒、統計142度511分35秒の地点
   地震の規模と性質:マグニチュード(Mw)9.0
   西北西-東南東方向に圧力軸をもつ逆断層型(太平洋プレートと北アメリカプレー  ト境界域における海溝型地震)
   最大震度: 宮城県栗原市  震度7(栗原市築館)
   最大加速度(PGA):宮城県栗原市  2,933ガル
Magnitudeマグニチュード 9.0
   関東地震(関東大震災、1923<大12>):M7.9
   北海道東方沖地震(1994<平6>):M8.2
   兵庫県南部地震(阪神淡路大震災1995<平7>):M7.3を上回る日本国内観測史上最大
   アメリカ地質調査所(United States Geological Survey USGS)
   1900年以降、世界第4位の巨大地震
被災状況 警察庁緊急災害警備本部 6月12日 = 3カ月後
   死者         15,421名
   行方不明         7,937名
   避難者         86,186名
   避難センター    1,395カ所

 

東日本大震災と阪神・淡路大震災 被害比較(2011年4月4日朝日新聞)

東日本大震災
岩手・宮城・福島
阪神淡路大震災
兵庫
死亡(人) 14,728 6,434
行方不明(人) 10,808 3
漁船(船) 22,000以上 40
漁港(隻) 300以上 17
農地(ha) 23,600 213.6
被害額(兆円) 16-25 9.9
県民経済(円)と
全国比率(%)
20兆7,130億
3.98%(2007)
20兆2,890億
4.18%(1993)

 

災害時の救援
  ・自分でできることをする  自助       ・私たちで出来ることをする 共助
  ・行政や外部に助けてもらう 公助

  自助:自分で出来ることを為す
   逃げること 最低限の食(水)、衛生を保持する
      安全を知らせる 情報を伝える
  共助:自分で出来ることを他人のために為す
      モノ(衣食住)の提供 特技、専門性の提供、日常事へのボランティア
   地域活動の修復、地域の統合
災害の定義(W.A.ガン)
  重大かつ急激な出来事で、 人間とその環境に対して広範な破壊を生じ、その地域の  みでは対応に非常な困難があるため、しばしば、外部援助を必要とする大規模な非  常事態
            
  公助:自分たちで出来ないことの援助をうける
      地域の公的機関、国内の組織、政府機関、外国の組織、国連

4.備えと教育
  『津波災害ー減災社会を築く』著者:河田惠昭
    /岩波新書 2010年12月17日 第1刷発刊
  ・まえがき
     2010年2月27日 チリ沖地震津波
    日本 : 約168万人に達する住民に避難指示・避難勧告が出された
    実際に避難した人は3.8%の約6.4万人
     ⇒年々住民の避難率は低下している
  ・歴史は繰り返している
    過去の犠牲を風化させず、 次の世代へ伝えることの重要性。
  ・教訓 「津波てんでんこ」
      津波が来る恐れがあるときには、親、兄弟、子どもや親戚の人などにかまわずに
   早く逃げなさいという意味
  ・防災教育
      津波に限らず、自然の脅威と共存について考える教育の場が必要。 
   命の授業は命を守る授業でもある!
戦略的に津波防災対策を行う
  1. 津波に関する包括的な知識を身につける
  2. 自分が助かるためにはどのように避難すればよいかを訓練で覚える
  3. 避難行動を困難にする制約条件を話し合いで明らかにし、
    状況認識を共有して近隣の人との関係をつくる
  4. 地域コミュニティにおけるお祭りや子ども会の行事などに参加する
  5. 災害図上訓練で、さらに実際に避難する場合の問題点を共同作業で見つけて、改善策を考える

 

5.赤十字の救援・防災教育
  ・1946年 第19回赤十字社連盟理事会の決議 
       「こう水、地震その他自然を原因として生ずる災害が自国内におこった場合たると、
   他国内におこって、その国の赤十字社と協力する場合たるとを問わず、
   苦痛を軽減するためにつくすべきである。」
  ・国内救護活動の法的根拠:災害対策基本法及び大規模地震対策特別措置法により、
   「指定公共機関」として位置付けられている
日本赤十字社の災害救護業務
  1. 医療救護:医療・助産及び死体の処理(救護班の派遣・避難所巡回・被災病院支援・
    救護所設営・負傷者、患者搬送・被災者の管理)
  2. 救援物資の備蓄と配分:毛布・日用品等
  3. 災害時の血液製剤の供給
  4. 義援金の受付と配分
  5. その他災害救護に必要な業務:赤十字奉仕団の活動

 

救護班の標準編成基準(平時から編成)
  医師1人 看護婦長1人 看護婦2人 主事 2人 計6人
 救護班については、救援業務の状況に応じ、ここの基準人員を増減することができるほか、必要がある場合は、薬剤師、助産婦、特殊救護要因を加えることができる
救護要員の平時からの訓練
   救護所設置訓練  緊急医薬品空輸訓練 緊急輸血用血液空輸訓練
  トリアージ訓練   担架搬送訓練  軽傷・中等傷者の救護訓練
  重傷者の救護訓練  重疾患者の空輸訓練 アマチュア無線非常通信訓練
  情報収集訓練   炊出し支援訓練 
こころのケア要員育成
    災害時に心に受ける影響は「異常な出来事に対する正常な反応」
    デンマーク赤十字社内に心理的支援センターを設置して、 各国赤十字社のこころの  ケアプログラムの 普及を支援
    国内では日本赤十字社幹部看護師研修センターで研修を行っている
    防災ボランティアに対する研修も開始
赤十字・・自己完結型の援助
   dERU(仮設診療所)(domestic Emergency Response Unit)
   総重量約3t
   エアテント1張り、貯水タンク、 発電装置
   麻酔薬・抗生物質など医薬品、 外科用具など医療資機材、診察台、簡易ベッド、担  架など積載
   1日150人程度の軽・中等度傷病者を3日間 治療可能
赤十字防災ボランティアの育成
   迅速かつ効果的な災害救護活動を行うためのボランティア
   実践研修会の実施:テント設営・炊き出し
   訓練・アマチュア無線による非常通信訓練・ 心肺蘇生法講習など
災害と救援
   自助―自分と家族の安全の確保
   公助―国や公的機関が行う支援
   産助―企業の防災・減災努力
   共助―地域コミュニティの支援

国の富と自然災害による人的影響

GDP
US$/人
年平均犠牲者/
人口10万人
GDP
US$/人口
年平均犠牲者/
人口10万人
ルクセンブルグ 44,000 0 ソマリア 550 2,701
アメリカ 37,600 59 シエラレオネ 580 155
ノルウェイ 31,800 5 ブルンジ 600 674
スイス 31,700 2 コンゴ民共 610 114
アイルランド 30,500 4 タンザニア 630 1,531
カナダ 29,400 72 マラウイ 670 8,748
ベルギー 29,000 2 アフガニスタン 700 1,120
デンマーク 29,000 0 エリトレア 740 6,402
日本 28,000 182 エチオピア 750 5,259
オーストリア 27,700 29 マダガスカル 760 2,090
平均 32,870 35.5 平均 660 2,879

Source: the International Emergency Disasters Database (2004)


【質疑応答】


Q 日赤の救護班は2チームあるということだが、今回東北大震災の救援で、チームが何日くらいの単位で救援に入ったか。そのときに、大学病院など他の医療機関との役割分担や連携をどのようにしているのか。

 

A 赤十字のチームは、通常災害がわかればすぐに対応します。今回も、その日の夜には新潟県の病院から救援に出ています。その後は大体1週間単位で動きます。赤十字も病院から人を出す場合は、病院の患者さんを持っているので、患者さんを放っておくことはできません。1週間単位で計画されますが、道が通れなくて、簡単に行き帰りができないような場合には、延長される場合もあります。また、仕事によっては長い期間の人もあります。
 現地に行ってからの他の機関との連携がどのように行われるかについては、赤十字は、全国に92の病院を持っていて、全国の赤十字から派遣された人たちは大体赤十字に拠点をおいて動きます。今回の場合、例えば石巻赤十字病院のように、付近の病院が全部被害を受けて非常に広範なところを一つの病院がカバーせざるを得ないような状況が起こっています。このような場合、その病院が、残っている保健医療施設、あるいは、病院がつぶれても医師や看護師が健在であれば、その方々と連帯することは行われます。ちなみに石巻の場合は、石巻日赤の石井外科部長がこの地域全体の医療のコーディネーションをされましたが、いろんなところからきている医療関係者、赤十字以外の方も含めて、毎日、朝夕に情報交換をされたことはよく知られています。基本的には、赤十字の中で行うことが主流になる場合もあると思いますが、広域の災害の場合は、当然連帯は行われております。どういう役割分担かはその時々のニーズによって、おそらく医療チーム間の話し合いでコーディネーションされると思います。場合によっても、状況によっても違うでしょうが、赤十字だけやって他を排除するということはありえません。

 

Q 支援に行った人が、支援活動から戻ってからケアが必要になるという、隠された被災者の問題は、大体どのくらいの割合でそういう事例が出ているのか。以前のものでもいいので、ケアの内容など、今まで研究されていることとか、発表されていることとかあったら教えてほしい。

 

A 全体をまとめた数字があるかどうかよくわかりませんが、過激な救援に行った場合に救援者のメンタルのケアが必要だということは、昔から国際的にも言われています。しかし、例えば阪神大震災の場合に救援に行った人の中でそのような問題がどの程度あったというようは明確に聞いていません。
 今回、特に悲惨であったことから、そういう問題が多く出てきているのかなと思っております。具体的に何パーセントとかいう数字はおそらく今までも出されていないのではないかと思います。国際保健の教科書などにもそういうケアが必要だということはきちんと書いてありますので、みな承知していますが、私自身が、実際に問題を抱えている人に遭遇したことはありません。ただ、質問を聞いていて、パキスタンのペシャワールで働いていたときに、日本から派遣された人で錯乱に近い状態になった方のことを思い出しました。必ずしも災害や紛争が原因であった(それは紛争地ですが)とは思えない、赴任直後だったので、異文化の影響もあるかも知れませんが、今後、そういう分野ももっと気をつけないといけないだろうと思います。

 

Q 救護用員の平時下の訓練ということで、「儀式」という表現が使われていたが、赤十字では、救護技術を学ぶことと、儀式や精神的なものを学ぶということをどのように考えているのか。
 また、東日本大震災に関する救援活動で、今現在どのような活動をしているのか。

 

A 訓練というのは、非常事態が起こった時に即応できるための技術的なものを身につけておくということです。救援は、可能な限り、訓練を受けた人が優先されます。今回のように広域の大災害になると、全員、訓練を受けた人ばかりでまっとうできない状況もありましょうが、最初、非常に緊急的なところは、他の災害救援経験者か訓練を受けた者から出します。現場に入って身につけないといけないことがたくさんありますので、ceremony的にも手順を覚える必要がありますし、経験者はチームの中の経験の少ないものを指導するという形もあります。また、赤十字の理念的なことに関しましては、赤十字に所属しておりますと常日頃からいろいろ見聞きさせられますし、赤十字全体のことについて、折に触れて訓練があります。まずは国際赤十字の成り立ちから研修を受けます。毎年、赤十字のいろいろな救援の仕組みなどについて研修があり、実践や繰り返しての研修に何年も参加しないと資格もなくなります。全体としては、1年に1~2週間くらいは研修生活をしなくてはならない状況です。
 今の段階で求められている救援については、おもな食料品に関しては、余っているそうですが、ちょっとした野菜とかが足りない、といって、その新鮮な野菜を一斉に送ると今度は腐ってしまうわけです。被災されたところの、市役所や町役場のホームページを見ますと、何がほしいかがくわしく出ています。最近では少し暖かくなってきて、防虫スプレーや蚊取り線香がほしいと出ていました。神戸の地震の時には女性の生理用品が不足しましたが、今回はそれが覚えられていたのか十分に足りているそうです。
 一番問題なのは、なんとか住めるような状態で家が残っていても、高齢者がおられるとか、犬や猫がいて、家を離れて避難所には行けない状態の方が救援から漏れているということです。そういうところに物資を配布する活動をするNGOもありますが、最終的には全部網羅するのは一組織では無理だと思います。いま本当はやらなくてはいけないのはそのようなもれを無くすことではないかと思います。保健医療の分野でいいますと、地域の病院の3分の1くらいが壊滅していますし、医師や看護師で亡くなっている方もたくさんいらっしゃいます。災害発生後から今までは、外部救援者でやってきたけれども、今後、外部者が引き揚げていきますと、今度は自分たちだけでやらないといけない。道具は壊れてまだ補修はついていない、疲れもある、私生活もあるのに、うまく動けないという悩みが出てきているように思います。アメリカで働いている日本人の看護師の方がアメリカ人のドクターに同行して救援に帰ってこられましたが、言葉がよくわからなくて、その問題が大きいと寄稿しておられました。そういうことが、これから起こってくる問題かと思います。

 

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