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KFAWアジア研究者ネットワーク開催セミナー

KFAWアジア研究者ネットワークセミナー 2014年度 第2回(2014年7月25日)
「ネパールの失われた女性たち」

1.日時 2014年7月25日(金) 18:30~20:00
2.場所 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ 5階
小セミナールーム
3.講師 福岡県立大学人間社会学部 佐野麻由子 准教授

   父権中心の価値観が根付いているネパールでは、大半の親は男児の誕生を望みます。女児は、結婚時に花嫁の実家が持参金を支払わなければならないことや、所得をもたらさないことから、親にとって経済的負担だとみなされ、育児放棄や、人身取引で売春宿に売られてしまうという現状があります。


講演要旨

  人口学の視点でアジアの人口における性比を見ると、不自然に女性の数が少なく、男児選好という社会現象が起きていると考えられます。男児選好により、この世に生を受けることができなかった女性・生まれても生きることができなかった女性を「失われた女性たち」と呼びます。
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  多民族国家でカースト制度の痕跡が残るネパールにおける「失われた女性たち」の人数は、約10万人と推定されています。2011年にネパール政府の発表した人口統計では、0歳児から10歳までの全人口では男性が女性を15万人以上上回っており、男児選好の傾向が見られます。また、US State Departmentによると、ネパールでは毎年1万~1万5千人がインドへ売られ、そのうち7千5百人が性産業に従事させられています。

  ネパールにおいて「娘」は結婚すると嫁ぎ先の家のカーストに属することになり、別の家の人とみなされます。また、娘の婚礼時にかかる費用は娘の家が負担しなければなりません。一方「息子」の方は、将来両親の面倒をみる存在であることから家の財産を相続します。また息子は穢れを払う存在とみなされており、家の葬儀において喪主の役割を任されます。

  佐野先生ご自身が2012年に行ったネパールでの聞き取り調査を元に、このような娘より息子が好まれる社会的背景を、データや写真を交え分かりやすく解説していただきました。また、2013年に実施した質問紙調査から、どのような人が息子を重視しているのかということを、グラフを交えてご説明していただきました。

  調査結果によると、女性より男性の方が息子が必要であると答える傾向があり、家父長制の影響が考えられます。また、経済的満足度や財産の多寡よりも、相対的な剥奪感が強い人ほど息子が必要であると回答する傾向があります。これは、市場化による経済的格差が拡大し、カーストによる身分の高低が弱まる中で、人と比べて「もつ・もたない」が重要となっており、もたざる者にとっては、経済的に有利な息子に期待が集まっている可能性があると分析されました。

  今後、ネパールでの調査結果の分析を進めるとともに、男児選好が徐々に薄れ女児を望む人が増える傾向にある日本の状況についても考察したい、とのご説明で講演は締めくくられました。