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KFAWアジア研究者ネットワーク開催セミナー

KFAWアジア研究者ネットワーク 2010年度 前期セミナー第1回(2010年6月22日)
「東北アジアの胎動と東アジア地中海経済圏」

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KFAWアジア研究者ネットワーク 2010年度前期セミナー第1回 要旨

「東北アジアの胎動と東アジア地中海経済圏」

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日 時  2010年6月22日(火)18:30~20:00

 

場 所  北九州市立男女共同参画センター5階 小セミナールーム

 

講 師  西南学院大学商学部 教授 小川 雄平

 

参加者  17名

 

 KFAWアジア研究者ネットワークでは、22010年度前期に「東アジアの経済の動きと女性の政治参画」をテーマに計3回セミナーを開催いたします。第一回の今回は、東北アジアの経済と、九州の経済についてお話いただきました。

 

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【講演要旨】


・はじめに
「少子高齢化人口減少」日本・九州の持続的発展
経済規模縮小、マイナス成長に耐え得るか?
  労働力減少(09年6,617万人・労働力人口比59.9%)減少を生産性上昇でカバー
  生活人口減少:内需縮小を交流人口増(観光、留学・研修生受容れ)と輸出増でカバー
「東アジア内需」依存型経済:自立した広域圏が東アジアの活力を取込み持続的に発展
  東アジア内需:日本企業を核にNIEs・ASEAN・中国企業が緊密に繋がる生産販売ネットワークの形成による事実上の東アジア市場の一体化→FTA(自由貿易協定)による市場統合
   東アジア域内貿易比率:50.8%(08年)cf.EU67.2%、NAFTA43%(07年)
  日本企業の海外(東アジア)シフト:海外所得還流(所得黒字>貿易黒字)と外資企業誘致
高い法人税率引下げとグローバル人材:消費税問題と若者の内向化


・巨大化する中国の存在
 「世界の工場」 → 「世界の工場」+「最終財消費市場」:WTO加盟による市場開放
  2009年:輸出世界1位、輸入世界2位、GDP4.9兆ドル(日5.0兆)、外貨準備2.4兆ドル
 「リーマンショック」以後の内需拡大:4兆元(60兆円)の財政出動
  「汽車下郷(車を農村に)」:自動車生産(1,379万台)・販売台数(1,364万台)共に世界一
  「家電下郷」(13%の補助金):液晶TV販売台数6,765万台(85.2%増)→日・韓輸出急増
 「外資導入・輸出依存」から「対外進出・内需依存」へ:人民元問題


・「東アジア地中海経済圏」とエネルギー・物流共同体
 「環黄海経済圏」から「東アジア地中海経済圏」へ
  海洋汚染防除と東アジア地中海(日本海・黄渤海・東シナ海の総称、地中海との類似性)
 エネルギー共同体の形成:天然ガス・パイプラインと電力共同体
  ロシア極東産天然ガスの共同利用:LNGとパイプライン輸送の競合(分岐点3000km)
  超伝導物質の開発と電力共同体:ガスタービン発電による電力の超伝導送電線供給
 シベリア鉄道と物流共同体の形成:相互依存による北東アジア地域の安定化
  シベリア鉄道全線電化(04年11月)によるスピードアップ:中・韓の利用による活性化
  トヨタの利用+貨物のトレース(ICタグ+GPSで状況把握)→日本の荷主の利用
  朝鮮半島南北間鉄道連結と釜山港起点のユーラシア・ランドブリッジ:北朝鮮包摂


・九州と中国東北の類似性
 「一割経済」:人口・面積・GDP・就業者数共に全国の10%前後
 産業構造の類似性:九州の後追い→九州の経験を中国東北で活かす(後発性利益)
食糧基地:九州の農業産出全国比19.2%(07年)、東北の穀物産出全国比16.9%(08年)
     牛肉オレンジ自由化の打撃(九州)、WTO加盟による安価な穀物輸入(東北)
  エネルギー基地:石炭→石油(炭鉱閉山:九州)、石油の枯渇→輸入依存50%(東北)
  重化学工業基地:公害と重厚長大型産業衰退(九州)、国有企業改革と設備の老朽化(東北)


・「東北振興」と「図們江開発」の格上げ
 東北振興:03年「東北旧工業基地振興戦略」提起、07年内蒙古東部を加え数値目標を設定数値目標:2012年1人当りGDPを02年比2倍増、2020年同4倍増
  辺境東北の改革開放加速→沿海地域との経済格差の是正(西部よりインフラ・産業基盤良好)
 図們江開発:UNDPと吉林省の中露朝国境地域開発(蒙・韓も参加)→中国国家級に格上げ
 東北振興と物流インフラ整備:域内物流活性化と対朝国境協力による対外輸送路の確保
  東辺道鉄道整備:鉄道整備+大東港増強による内陸部の物流活性化→黄海物流活性化
  中・露の北朝鮮羅津港利用及び輸送道路借上げ+鉄道整備→日本海物流活性化

 

【出席者の感想 主席研究員 篠崎正美】


   いろんな意味で世界の大国となり、これからもそうあり続けるだろう中国のプレゼンスは日本人として日々関心を持たざるをえない。1978年の改革開放以降30年の間、年平均10%近い経済成長率は、かつての日本以上の勢いかもしれない。
今日のお話は、発展する沿岸部に対して、これまでは西部、内陸部の問題が指摘されてきたが、「東北」部での、国家的振興計画が動き出しているという興味深いものだった。
  ロシア、北朝鮮との長い国境線を持ち、日本海を隔てて我が国ともつながる中国東北部での胎動が、具体的な発展に転換していくとき、私たち、とくに東アジアとの交流が深い九州・福岡は、どんな関係がありうるのだろう?
中国東北部は、農業生産額、石炭、など主要な点で九州に類似している指摘も面白かった。同じく、面積・人口GDPなどで、日本と同規模だったオランダが、今日、日本以上に成長しているという指摘も(資料参照)。
  日本では経済成長期には、「男は仕事・女は家事育児」という性別役割分業が強化・固定化され、いまだにその枠組みから自由になれないでいる。一億人余がこの固定化されたジェンダー体制の中で、大きな欲望を刺激され、成長を支えてきた日本。
 「輸出志向」から「内需拡大」政策に転換した中国では、男女が対等に働きながら、巨大な欲望拡大社会に向かって動いて行くのだろうか?それとも、女性が政治や経済により多く関与している中国では、日本とは異なった変化がありうるのだろうか?
 少子高齢化社会の社会保障、エネルギー問題、環境問題、その一角をなすテクノロジーの遅れ、中国にもいろんな課題があると思うが、男女の人権、生活者の視点から、今後も隣国の変化を理解し、交流を深める必要があることを再認識した。貴重な報告を頂いた小川先生に多謝したい。

 

 

資料

表1 全国・九州圏・福岡県の輸出入相手先構成      単位:%

輸  出

米 国

東アジア

NIE

中 国

ASEAN

総 計

1985

37.2

   24.1

12.8 

  7.1

   6.4

100.0

2009

16.1

   52.7

23.5 

 18.9

   8.3

100.0

09九州圏

11.8

   57.5

28.4 

 21.1

  12.3

100.0

09福岡県

13.4

   64.0

29.1 

 25.8

  13.3

100.0

輸  入

米 国

東アジア

NIE

中 国

ASEAN

総 計

1985

 19.9

   26.4

  7.0 

  5.0

  15.6

 100.0

2009

 10.7

   43.9

  8.6 

 22.3

  14.1

 100.0

09九州圏

  4.9

   36.2

  9.5 

 14.2

  13.1

 100.0

09福岡県

  8.0

   71.7

20.1 

 30.7

  21.9

 100.0

(注)九州圏に沖縄県と山口県を含む。

出所:財務省及び門司税関の貿易統計より算出。

 

 

表2 九州とオランダの経済規模比較

1997

面積(k㎡)

人口(1,000)

GDP(100万ドル)

1人当りGDP(ドル)

九州8県

  44,426

   14,743

   395,049

    26,795

オランダ

  41,526

   15,604

   363,353

    23,292

2006

面積(k㎡)

人口(1,000)

GDP(100万ドル)

1人当りGDP(ドル)

九州8県

 44,453

   14,685

   412,406

    28,084

オランダ

 41,543

   16,346

   663,929

    40,617

ベルギー

  30,528

   10,542

   392,706

    37,252

出所:九州経済調査協会『図説九州経済』各年版による。

 

 

表3 九州7県及び中国東北地域の指標(2008年)

 

九州7県

日本全国

全国比

中国東北

中国全国

全国比

面積(10,000k㎡)

   4.2

  37.8

 11.2

   78.8

   960.0

  8.2

人口(10,000)

1,322.5

12,769.2

 10.4

10,874.1

132,802.0

  8.3

GDP(100万円・億元)

442,752

5,188,241

  8.5

28,,195.6

300,670.0

8.6

就業者数(10,000)

620.8

 6,150.6

 10.1

 1,165.0

11,515.4

10.1

(注)日本のGDP2006年度、就業者数は2005年の数値、中国は都市部従業員数。

出所:九州経済調査協会『図説九州経済2010』及び『中国統計年鑑2009』により算出。

 

表4 主要国の貿易動向(2009年)                単位:10億ドル、%

順位

輸出国名

輸出金額

シェア

伸び率

輸入国名

輸入金額

シェア

伸び率

中  国

 1,202

  9.6

-16

米  国

 1,604

 12.7

  -26

ド イ ツ

 1,121

  9.0

  -22

中  国

 1,005

  8.0

  -11

米  国

 1,057

  8.5

  -18

ド イ ツ

   931

  7.4

  -21

日  本

   581

  4.7

  -26

フランス

   551

  4.4

  -22

オランダ

   499

  4.0

  -22

日  本

   551

  4.4

  -28

フランス

   475

  3.8

  -21

イギリス

   480

  3.8

  -24

イタリア

   405

  3.2

  -25

オランダ

   446

  3.5

  -23

ベルギー

   370

  3.0

  -22

イタリア

   410

  3.2

  -26

韓  国

   364

  2.9

  -14

香  港

   353

  2.8

  -10

10

イギリス

   351

  2.8

  -24

ベルギー

   351

  2.8

  -25

出所:WTOによる2010年3月26日発表の数値。

 

 

 

表5 主要日本企業の海外売上高比率の目標値

 

目標年度

海外売上高目標値

現行比率

川崎重工業

2020

  65

 48

東   芝

2012

  63

 55

三菱重工業

2014

  63

 49

第一三共

2012

56.5

 50.8

パナソニック

2012

  55

 48

住友化学

2012

  53

 45

日立製作所

2012

50%超

 41

N E C

2017

  50

 20

神戸製鋼所

201520

  50

 30

富士通セミコンダクター

 2012

  40

 20

村田製作所

 2013

  30

 15

ユニ・チャーム

 2012

  50

 36

Cf.自動車8社(09):海外生産1,114.8万台>国内生産856万台(輸出388.7内販462.2)

出所:最近の新聞報道より作成。 

 

 

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