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KFAWアジア研究者ネットワーク開催セミナー

KFAWアジア研究者ネットワークセミナー 2013年度 第2回(2013年10月15日)
「アメリカにおける性暴力被害者支援の仕組・課題」

1.日時 2013年10月15日(火) 18:30~20:00
2.場所 北九州市立男女共同参画センター・ムーブ 5階小セミナールーム
3.講師 日本赤十字九州国際看護大学 力武由美
4.参加者 27名

 アメリカでは様々な形で性暴力被害者に対する支援の取り組みが進められています。このたび、日本赤十字九州国際看護大学の力武由美氏が2013年8月から9月にかけて実施した、テキサス州、コロラド州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、ペンシルバニア州の5つの州における性暴力被害者支援施設の訪問調査の結果と今後の課題についてご報告いただきました。
 各州がどのような法制度の下に、司法、行政、医療、警察、人権擁護(アドボカシー)団体がそれぞれの資源をどのように使い、どのように連携して性暴力被害者支援に取り組んでいるかを概観し、その成果と課題を明らかにするとともに日本の取り組みへのヒントを示していただきました。


―講演要旨―

 アメリカでは1970年代の女性解放運動の流れの中で、性暴力などのDV被害者を保護するためのシェルター運動が始まりました。その後、シェルターは全米に広がっていきますが、被害者の実態が明らかになるにつれ、支援者たちは法システムの整備に関心を向けるようになったのです。
 その結果、80年代にDVを家庭の私事ではなく、刑事司法の場においても明確に「犯罪」として定義する動きが出てきて、ほとんどの州にDV防止法が制定されました。さらに、1994年、女性に対する暴力防止法が制定され、1995年には米司法省に女性暴力防止局が設置されました。また、2005年の女性への暴力および司法省再編法では、性暴力被害における法医学的証拠採取を公的機関の重要な義務とし、2013年再授権法では、同性愛者の被害者が支援対象として明確化されました。
 今回、5つの州の病院や大学などの性暴力被害者支援施設を調査しましたが、大きな役割を果たしているのが「法看護士」の存在です。日本では、まだ法看護という分野は確立されておらず、通常の看護師は性暴力被害者を診ることはできません。アメリカでは性暴力被害者のケアや、専用の採取キットを用いた迅速な証拠採取などを法看護士が担当します。証拠採取などの過程で法看護士は被害の調査を行うことになりますが、警察ではないので、あくまで被害者のケアがメインの仕事です。調査中に多くの法看護士に会いましたが、仕事に対する大きな使命感と情熱を感じました。また、法看護士の他にも、病院によっては警察が常駐したり、子どもの性暴力被害者に対して社会福祉士がカウンセリングを行うなどのサポート体制があります。
 今後の課題としては、近年子どもへの性暴力被害が増加しており、子どものケアについてさらに取り組みを進める必要があること、移民や同性愛者など支援を受けにくい人達へのケアを強化しなければならないこと、また、法看護士については、制度としては確立されているものの、雇用の面から考えるとまだ増えておらず、法看護士がその力を十分に発揮できるような環境づくりが必要であることが挙げられます。アメリカにおいても、性暴力被害者支援の問題は試行錯誤が続いている状況です。
 日本の状況ですが、アメリカはもちろんのこと途上国と比べても、看護士の権限が非常に制限されており、性暴力被害者のケアなど現行の制度上ではほとんど何もできません。法看護士制度を導入しようとしても、医師との間の権限の問題など様々な障壁があります。ただ、アメリカでも法看護士制度を導入する際には同じような問題がありました。今でも完全に解決していませんが、ひとつずつそれを克服していった歴史があります。
 最後に、テキサス州ヒューストン市のメモリアル・ハーマン病院に勤務する、元軍人というユニークな経歴を持つ男性法看護士のエピソードで講演は締め括られました。


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