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国境紛争がカンボジアの女性と少女に与える影響

-ヴィサルソックヴァタイ・シン(カンボジア)

 

 

2025年6月24日、カンボジアのタムアントム寺院に有刺鉄線が設置されたことで、タイとカンボジア間の紛争は憂慮すべき局面を迎えました。この緊張の高まりは、特にカンボジアの女性と少女に影響を及ぼし、多大な人的被害をもたらしています(Rin, 2025[1])。議論はしばしば政治的または軍事的な側面に焦点が当てられがちですが、これらの紛争が単に国境を変えるだけでなく、生活を破壊し、既存の不平等を深め、特に社会で最も疎外された人々に影響を及ぼすことを忘れてはなりません。

 

 

避難と脆弱性の増大

緊張が高まるにつれて、家族は家を追われ、女性や子どもたちがこの混乱の矢面に立たされています。仮設住居での生活は、多くの新たな危険をもたらします。清潔な水や適切な衛生設備といった基本的な必需品へのアクセスが大きな懸念事項となります。また安全な男女別の施設がない場合、女性と少女はハラスメントや暴行のリスクが高まります。多くの女性、特に生理のある女性にとって、プライバシーの欠如と劣悪な衛生状態は、日常生活に深刻な影響を及ぼしかねません。人道支援団体が衛生キットなどの必需品を提供するなど絶え間ない努力をしていますが、需要は供給を圧倒的に上回る状態が続いています。

 

 

経済的破綻と生計の喪失

紛争による経済的負担は、女性に重くのしかかります。国境の閉鎖や貿易ルートの寸断により、地域経済は大きな打撃を受けており、特にその多くが女性である小規模事業者が深刻な影響を受けています。しばしば家族の主要な稼ぎ手であるこれらの女性は、仕事を失い、家族はさらなる貧困に追い込まれます。選択肢が限られている中、収入を得るために危険な仕事に手を出す女性もおり、搾取のリスクがさらに高まっています。このような不安定な状況により、彼女たちは他者に頼らざるをえなくなり、ますます無防備で不安に感じます。

 

 

精神的トラウマと絶たれた未来

紛争の影響は肉体的苦痛にとどまらず、女性や少女に深刻な心の傷をもたらします。常に恐怖の中で暮らし、暴力を目の当たりにすることで、深刻かつ長期的な精神上の健康問題を引き起こしかねません。学校が破壊されたり、避難所として転用されたりすることで、子どもたち、特に少女たちの教育が中断され、将来がないがしろにされるリスクがあります。このような不安定な状況は、感情面での発達に深刻な影響を及ぼし、特に繊細で傷つきやすい成長過程にある幼い子どもたちに深刻な影響を与えるおそれがあります。

 

 

暴力および搾取のリスク

不安定な情勢の地域では、ジェンダーに基づく暴力と搾取のリスクが急増します。社会構造の崩壊と不安定な環境が相まって、女性や少女は人身売買、暴力、早期結婚のリスクが高まり不安定な状況に置かれます。従来の支援ネットワークが崩壊したことで、彼女たちは弱みにつけこもうとする者たちの格好の標的となります。安全な居場所作りや意識を高める取り組みは重要ですが、紛争という不安定な状況により彼女たちの保護は困難となっています。

 

 

意識向上と行動への呼びかけ

タイとカンボジアの国境紛争による人的被害、特に女性や少女に対する影響に対して、早急な対応が求められています。この状況は、地政学的な争いが地域社会に影響を及ぼし、最も無防備な人々に苦痛をもたらすことを浮き彫りにしています。こうしたジェンダー特有の影響を認識することは、より広範かつジェンダーに配慮した人道支援活動を提唱し、すべての人々を真に保護し、エンパワーする永続的な平和の構築に向けた第一歩となるでしょう。

 

[1] Cambodianess: Safe Spaces Help Heal Women and Children Displaced by Border Clashes

 

写真1:カンボジアのオッダー・メアンチェイ州でタイとカンボジアの衝突から逃れるために避難所で生活する女性と子どもたち。Soun Ravy氏撮影 (Soun, 2025)

 

写真2:平和だけでなく、教育も追い求める避難所の少女。Mr. Yaon Mengsrun氏撮影 (Yaon, 2025)

 

【プロフィール】

ヴィサルソックヴァタイ・シン

 

カンボジアの女性省に勤務。世界的に重要な課題であるジェンダー平等に関する研究と出版物の作成に情熱を注いでいる。

岐路に立つ国:バングラデシュにおける
ジェンダーに基づく暴力の動向(2024年8月以前と以後)

-ファリン・ビンタ・ザヒル(バングラデシュ)

 

バングラデシュにおいて、ジェンダーに基づく暴力は極めて重要な問題です。この問題は、社会的、文化的、そして経済的な不平等に深く根ざしており、バングラデシュの女性たちは長年にわたり身体的、精神的、性的暴力にさらされてきました。さらに近年ではオンライン上の暴力が脅威となっています。また暴力の発生率が急激に増加しています。バングラデシュが近代化と政治・社会改革を進める中で、このようなジェンダーに基づく暴力はジェンダー平等の実現に対して大きな障害となっています。

 

 

2024年8月はバングラデシュにとって極めて重要な転換点となりました。大規模な抗議活動「差別に反対する学生運動」が起こり、深刻な政治的混乱が生じ、多くの地域で夜間外出禁止令などの緊急措置が講じられました。日常生活は混乱し、公共機関は大きな負荷を受け、恐怖と不安が広がりました。法執行機関は対応に追われ、一般市民を保護する体制が機能不全に陥りました。その結果、特に女性や子どもたちは不安定な状況に置かれ、法的サービスが受けにくくなるというリスクに直面しています。

 

 

バングラデシュ統計局と国連人口基金が実施した「2024年女性に対する暴力調査(2024 Violence Against Women Survey)」によると、女性の約70%が、身体的、性的、精神的、経済的、オンライン上の虐待を含む何らかの形の暴力を親密なパートナーから受けたことがあると報告しています[2]。また女性の41%がこの1年間に親密なパートナーからの暴力を経験したと回答しており、これは2015年の55%から減少しています[3]。特に15歳から19歳の若い既婚女性は被害を受けやすく、過去1年間に62%以上が親密なパートナーから暴力を受けたと報告しています。さらに、この調査では女性の75.9%が生涯の中で少なくとも一度は暴力の被害を経験していることが明らかになりました。また、農村部(76%)と都市部(75.6%)はほぼ同等の結果となっています[4]

 

 

一方、2024年8月5日に発生したバングラデシュの政治的転換により、女性に対する暴力が増加しました。女性と子どもたちは、暴力に晒される機会が増え、避難を余儀なくされ、経済的に不安定になり、さらに法執行機関、医療、教育、司法などの基本的サービスを受けにくくなるなど、極めてリスクの高い状況に置かれました。2024年8月から2025年1月までの間に、少なくとも8,307件の事件の届け出があり、そのうち2,016件がレイプ事件でした[5]。さらに、国の緊急ヘルプライン999には、2024年8月から2025年2月の間に、女性と少女に対する暴力に関する通報が8,935件寄せられました。月次報告書により、暴力事件数の月ごとの変動がさらに明確になりました[6]

 

 

例えば、2024年9月には女性や子供に対する暴力の報告件数が2024年8月と比較して27%増加し、147件から186件に上昇しました[7]。レイプ事件は8件から13件に、集団レイプ事件は7件から11件に増加しています。同月には、49人の女性や少女が様々な理由で殺害されました。2025年1月には、205人の女性や少女が様々な形態の暴力に直面しており、そのうち67件がレイプ事件で、20件が集団レイプでした[8]

 

 

特定の地域では、家庭内暴力の件数が著しく増加しました。ラジシャヒ(バングラデシュ西部)では、2024年の報告件数が前年と比較して3倍に増加し、299人の女性が家庭内暴力の被害を受けたことが明らかになりました[9]。バングラデシュでは、災害の多い地域の女性がより高いリスクにさらされています。特に災害多発地域では女性の81%が親密なパートナーからの暴力を経験しており、災害のない地域の74%と比較して高い割合となっています[10]。バングラデシュにおける社会規範とハラスメントのため、身体的または性的暴力の被害者のうち64%がその経験を誰にも打ち明けていませんでした[11]

 

 

2025年3月には、マグラ県で発生した8歳の少女がレイプされ死亡した悲惨な事件が、国内外で注目を集めました[12]。さらに、サイバー犯罪は現在、ジェンダーに基づく暴力の新たな手段となっています[13]。中でもソーシャルメディアはサイバー犯罪の主要なプラットフォームとして際立っており、被害者の多くは18歳から30歳の若年層です。情報源によって異なりますが、サイバー犯罪の被害者のうち約72%〜80%が女性であると推定されています[14]。また、セクストーション(性的脅迫)もあらたな問題として浮上してきています。バングラデシュ全国女性法律家協会(Bangladesh Women Lawyers Council)の情報によると、サイバー犯罪が原因で毎年平均11人の女性が自殺未遂に至っていると報告されています[15]

 

 

バングラデシュでは、ジェンダーに基づく暴力への対応が進められてきたものの、2024年8月以降、報告件数の増加が懸念されています。政治的な移行期、経済的な困難、そして社会的規範が、昨今のジェンダーに基づく暴力の増加に大きく影響しています。この課題に対処するためには、法制度の改革、地域社会による取り組み、そして女性を保護しエンパワーするための充実した支援サービスの整備が不可欠です。

 

[2] UNFPA in Bangladesh: VIOLENCE AGAINST WOMEN SURVEY BANGLADESH 2024

[3] 同上

[4] 同上

[5] NEWAGE: End to violence against women in Bangladesh not in sight

[6] 同上

[7] The Daily Star: Violence against women jumps by 27pc in September

[8] The Daily Star: 205 women, girls faced violence in January

[9] NEWAGE: Domestic violence against women on rise in Rajshahi

[10] UNFPA: VIOLENCE AGAINST WOMEN SURVEY BANGLADESH 2024

[11] 同上

[12] The Dairy Star: Magura rape victim suffers two more cardiac arrests today

[13] Prothom Alo ENGLISH: Women ‘easy targets’ in cyberspace too

[14] Daily Sun: Women major victims of cybercrimes

The Daily Star: 80% of cyberbullying victims are women: Cyber Crime Division of DMP

[15] GENDERIT.ORG: Cyber violence against women: the case of Bangladesh

 

【プロフィール】

ファリン・ビンタ・ザヒル

 

教育と科学技術の分野で12年以上の経験を持つ教育者。バングラデシュの国家教育政策に積極的に関わり、女性のエンパワーメント支援にも取り組んでいる。

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