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パキスタンにおける女性の経済的エンパワーメント:課題と進歩

-ジャワリア・A・カシフ(パキスタン)

 

 

経済的エンパワーメントは、女性が自立し、社会に積極的に貢献するため不可欠です。パキスタンにおける女性のエンパワーメントは、進歩と困難を伴う変化に富んだプロセスです。根深い社会規範、ジェンダーに基づく暴力、低い労働力率、財産所有におけるジェンダー格差、社会的・文化的障壁、資源への限定的なアクセス、経済格差は、パキスタンにおける女性のエンパワーメントの完全な実現を妨げている困難な課題です。しかし、パキスタンの様々な分野で、ジェンダー平等を促進し、女性をエンパワーする社会的な姿勢、政策、取り組みには著しい変化が見られます。

 

 

女性が教育、技能訓練、保育所にアクセスできるようになれば、女性の労働への参加を高めることにつながります。財産所有権への平等なアクセスは、女性の経済的安定とエンパワーメントにとって不可欠です。同様に、マイクロファイナンス、テクノロジー、市場機会へのアクセスは、女性が事業を発展、成長することを可能にします。

 


パキスタン政府は長年にわたり、ジェンダー平等を国家政策の枠組みに組み込む努力をしてきました。注目すべき取り組みは、2002年の国家ジェンダー政策、国家女性の地位委員会(NCSW)の設立、女性開発局(WDD)の設立、様々な分野における女性のクォータ制の導入、ベナジル所得支援プログラム(BISP)、国家農村支援プログラム(NRSP)、農村支援プログラムネットワーク(RSPN)のようなプログラムの創設などが挙げられます。これらのプログラムは、直接的な財政支援を提供することで、経済的に疎外された女性たちをエンパワーしています。

 


女性の労働への参加は、特に都市部や銀行、教育、医療といった特定の分野で増加しています。アルキドマット財団パキスタン(Alkhidmat Foun-dation Pakistan)によるマイクロファイナンス・プログラム(例えば、女性や母子家庭を対象とした小規模ビジネス(仕立て、食品加工など)設立のための無利子融資)は、自立と自信を育み、新規事業開始や事業拡大の機会を提供し、職業訓練の取り組みは、女性が起業し経済的自立を築く機会を提供しています。同様にカシュフ財団(Kashf Foundation)は、パキスタンの低所得女性起業家に対し金融サービスを提供しています。小口融資、ビジネス研修、メンターシップを通じて、カシュフ財団は数千人もの女性が起業し事業を拡大できるよう支援し、彼女たちの経済的地位と社会的地位を向上させてきました。

 

 

パキスタン政府と州政府は、数多くのデジタル、技術、職業訓練のプログラムを導入しています。例えば、パンジャブ技能開発基金(PSDF)、Digi Skills、パンジャブ職業訓練評議会(PVTC)、技術教育・職業訓練庁 (TEVTA)、国家職業技術教育委員会(NAVTTC)などです。より多くの少女や女性がこれらのプログラムから恩恵を受けています。

 


このような進歩が見られる一方で、文化的な偏見やジェンダーバイアスは根強く残っています。パキスタンでは、女性にとって移動は常に大きな課題でした。女性がスクーターやバイクを乗り始めたことで、女性がどう自分の人生の舵を取るかに大きな変化が見られ、この勢いを維持する支援政策が必要とされています。パンジャブ州政府と協力してサルマン・スーフィ財団(Salman Sufi Foundation)が実施している「ウィメン・オン・ウィールズ(バイクに乗る女性たち)」のような、女性にバイクの乗り方を教えるプログラムは、その一歩です。

 


一方、ジェンダーに配慮した法律と政策が、パキスタンの女性の経済的エンパワーメントへの道を切り開きました。重要な立法の例としては、州の家内労働者法、州の障害者法、職場におけるハラスメント防止法、女性財産権法の施行です。シンド州とバローチスターン州では、DV防止法により家庭内暴力に対する法的保護がなされています。パンジャブ州の対暴力女性保護法(Punjab Protection of Women against violence Act)は、家庭内暴力、精神的虐待、インターネット上のいじめを取り扱っています。また、酸攻撃や名誉殺人に対する法律も制定されています。しかし、文化的抵抗や制度的障壁のため、その施行と執行は依然として大きな課題です。バローチスターン州で最近発生した事件₁₀は、パキスタンの根強い家父長制と歪んだ名誉の概念を象徴しています。法的枠組みを強化し、司法へのアクセスを改善する努力が継続されています。

 

 

クォータ制で地方自治体や国会における女性参加を確保することで、女性の政治参加は増加しました。しかし、こうした進展にもかかわらず、女性は指導的役割に就くことができず、また意思決定プロセスに完全に参加できずにいます。

 

 

それでも、パキスタンの女性のレジリエンス、決意、功績は、市民社会団体、活動家、政策立案者の努力と相まって、変革的な変化が期待されています。女性の権利を支援し、経済的・政治的に女性をエンパワーし、ジェンダー規範(例えば、性別役割分担、家父長制、名誉と家族、ヴェール着用、家族生活への影響、文化的・宗教的影響など)に挑むことにより、パキスタンは女性の可能性を最大限に引き出し、すべての人にとってより包摂的で繁栄した社会を築くことができます。

 

1 Unlocking Women’s Economic Empowerment: Revisiting Tax and Property Reform in Khyber Pakhtunkhwa
https://blogs.worldbank.org (参照2025-7-24)

2 National Commission on the Status of Women
https://ncsw.gov.pk/

3 How Alkhidmat Empowering Women in 2025 through Islamic Microfinance Solutions
https://alkhidmat.org (参照 2025-7-24)

4 Kashf Foundation
https://kashf.org/financial-products/

5 PSDF
https://www.psdf.org.pk/empowering-rural-women/

6 DigiSkills Training Program | Free online training in Pakistan
https://digiskills.pk/

7 Women on Wheels – WOW
https://salmansufifoundation.org/wow/

8 酸攻撃とは、硫酸・塩酸・硝酸など劇物としての酸を他者の顔や頭部などにかけて火傷を負わせ、顔面や身体を損壊にいたらしめる行為を指す。

9 名誉殺人とは、自由恋愛をした女性やその支援者を「家族の名誉を汚す」と見なし、家族がその名誉を守るために私刑 として殺害する風習のこと。

10 Sheetal and Zark: Love, Blood, and Pakistan’s Twisted Patriarchy
https://www.aiknewshd.tv/2507210007-sheetal-and-zark-love-blood-and-pakistans-twisted-patriarchy-(参照 2025-7-24)

 

写真:パンジャブ州にて「ウィメン・オン・ウィールズ」プロジェクトのもと、バイクに乗る少女・女性にパキスタンのハラスメント防止をレクチャー

 

【プロフィール】

ジャワリア・A・カシフ

 

家族事件弁護士、ジェンダーに基づく暴力の専門家、法務トレーナー、女性の権利活動家、パキスタン・ラホール地区女性保護センター任意弁護士パネルメンバー。

 

 

 

カンボジアにおける政府のジェンダー平等政策の進展

-ヴィサルソックヴァタイ・シン(カンボジア)

 

悲惨な過去₁₁を乗り越えたカンボジアのジェンダー平等政策は、一連の重点的な政府の政策とプログラムを通じて、ジェンダー平等の推進に向けて大きく発展してきました。文化規範₁₂や社会経済的問題を抱えながらも、カンボジア政府は、女性の権利を強化し、ジェンダーに基づく視点を国家全体の開発計画に組み込むことに力を入れています。本稿では、カンボジアの現状、課題、そしてこの問題への対処に向けた提案について考察します。


歴史的に、カンボジアの文化では、この地域の他の多くの文化圏と同様に、女性は家事労働に限定されてきました。しかし、2000 年代初頭以降、この問題の解決に向けた取り組みが進められてきました。1993 年施行のカンボジア憲法は、女性に対する差別を明確に禁止し、ジェンダー平等の法的根拠となっています(カンボジア政府、1993 年)。カンボジアの憲法上のコミットメントは、国際人
権条約への加盟、特に「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」への加盟によって強化されてきました。


ネアリ・ラタナク戦略計画(女性は貴重な宝石)の 5 カ年計画は、発足以来、何度か改訂されてきました。最新の年次計画であるネアリ・ラタナクVI(2024~2028 年)は、すべての国家機関、部門別の政策、プログラムにジェンダー平等と女性のエンパワーメントを組み込むことを目指しています(女性省、2024 年)。この計画は、人々の生活水準の向上、教育・医療・法的保護・ガバナンスへのアクセス改善、気候変動への理解促進といった課題に焦点を当てています。女性省は、このようなプログラムの主導、調整、監督において重要な役割を果たしており、首相は国家のコミットメントを確実に履行するため、年次評価会議を開催しています。

 

カンボジアは、特に小学校において女子の就学率が高いなど、ジェンダー平等と教育において著しい進展を遂げています。当局は、教育と職業訓練における男女格差の是正に努め、女性がより高収入の経済分野で働くためのスキルを習得できるようにしています。しかし、都市部から離れた地域での避妊に対するアクセス改善など、平等な待遇が必要な分野はまだ存在します。


近年、経済的エンパワーメントは大きく進展しており、女性の労働市場への参加促進、金融サービスへのアクセス向上、起業家精神の育成を目的とした政策が実施されています。「インフォーマル経済開発国家戦略(2023-2028)」は、インフ
ォーマル経済の拡大と、任意加入の社会保険制度と法人化制度を通じて、女性が正式な雇用へ移行できるよう支援することを目的としています。(カンボジア政府、2023 年)。

 

こうした進歩にもかかわらず、根深い文化規範や固定観念、差別的態度、実施の不備、規制上の問題、指導的地位と政治におけるガラスの天井など、依然として大きな障壁が残っています(国連、2022 年)。女性は、重要な意思決定のポジシ
ョンに就く割合が低く、インフォーマルな労働市場で働いたり、移民労働者になるなど行き詰っています。結論として、カンボジアはジェンダー平等の推進と女性のエンパワーメントにおいて大きな進歩を遂げてきましたが、既存の障壁を克服し、すべての女性に平等な機会を確保するためには、さらなる取り組みが必要です。

 

要約すると、カンボジア政府は、政策枠組み、特に「ネアリ・ラタナク戦略計画」と「女性に対する暴力に関する国家行動計画」を通じて、ジェンダー平等への明確かつ進歩的なコミットメントを示しています。教育、健康、経済的エンパワーメントの分野では進展が見られ、政府は女性の政治的役割の向上とジェンダーに基づく暴力の防止に向けた目に見える取り組みを開始しています。しかし、完全なジェンダー平等を達成するには、既存の社会慣行を是正し、政策をより良く実施し、すべてのカンボジアの女性と少女が平等な機会を得られるようにするための継続的な努力が必要です。残された課題に対処し、すべての人に平等な社会を進めるためには、政府の献身的な取り組みと、国内の NGO や国際的なパートナーとの協力が鍵となります。

 

 

11 1975年から1979年にかけてクメール・ルージュ政権がカンボジアを支配していた時代を指し、個人、家族、そして国家全体に影響を及ぼしました。この政権は、処刑、飢餓、病気、強制労働により、約150万から300万人(人口の約4分の1)が死亡した責任を負っています。これにより、深い悲しみと悲嘆が広がり、多くの家族が親族を失いました。

 

12 文化規範とは、社会で広く受け入れられ実践されている行動、信念、価値観、習慣を指します。女性は物腰柔らかで、優しく、控えめな態度であることが求められます。女性の主な役割は、家庭を支え、子供や高齢者を世話し、家計の管理をすることとされています。例えば、カンボジアでは、女性は家で家事を行い、男性は学校に通うべきだと一般的に信じられていました。

 

参考資料:

・The Ministry of Women’s Affair (MoWA). (2024). Neary Rattanak VI. The Ministry of Women’s Affairs.

https://www.mowa.gov.kh/en/nearyrattanakenvi

https://asset.cambodia.gov.kh/mowa/2024/08/NR6-English-V10_Web.pdf

 

・The Ministry of Women’s Affair (MoWA). (2019). The National Action Plan to Prevent Violence Against Women (NAPVAW) 2019-2023. The Ministry of Women’s Affairs.

https://www.mowa.gov.kh/en/national-plan-to-prevent-violence-against-women-2019-2023-en

 

・The Royal Government of Cambodia (RGC). (1993). The Cambodia’s Constitution Law.

https://www.mfaic.gov.kh/files/uploads/2Z87AYOO63VI/Constitution%20of%20the%20Kingdom%20of%20Cambodia.pdf

 

・The Royal Government of Cambodia (RGC). (2023). National Strategy for Informal Economy Development 2023-2028. Digital Platform for Informal Economy Development.

https://cdn.misti.gov.kh/documents/202502051007038bjzgpqRQ7Gj.pdf

 

・The United Nation (UN). (2022). Gender Equality Deep-Dive for Cambodia. United Nation Cambodia.

https://cambodia.un.org/sites/default/files/2022-03/Gender%20Deep%20Dive%20-%20CCA%20Cambodia_V6_010322_LQ.pdf

 

写真1:ジェンダーに基づく暴力の被害者支援のためのワンストップサービスに関する運用基準の公式発表(女性省、2024年)

 

写真2:ネアリ・ラタナク戦略計画VI(2024-2028年)の発表イベント(女性省、2024年)

 

 

 

【プロフィール】

ヴィサルソックヴァタイ・シン

 

カンボジアの女性省に勤務。世界的に重要な課題であるジェンダー平等に関する研究と出版物の作成に情熱を注いでいる。KFAW の第 33 期海外通信員。

 

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